・電子ピアノとアップライトピアノの違いが知りたい
・ピアノを買いたいけどどちらが良いかわからない
というお悩みを楽器屋店員のyamaが解説します。
電子と生ピアノの違いは
・電子ピアノが有利な面は主に音量と価格
・生ピアノでしか得られない音と表現力はある
・電子ピアノは高ければ高いほど生ピアノの性能に近づくが、同じにはならない
現代では多くの人は電子ピアノが良いです。
電子ピアノ・生ピアノの違い/メリット・デメリット比較
電子ピアノ | 生ピアノ(アップライトピアノ) | |
---|---|---|
メリット | ●音量調整ができる ●ヘッドフォンが使える ●予算に応じて選べる ●調律不要(メンテナンスが楽) ●メトロノームやアプリなど多機能 ●様々な音色が選べる ●40kg弱、大人2人で楽に移動できる ●個体差が無い | ●本物のピアノの音色 ●強弱などタッチによる表現力が身に付く ●定期的にメンテナンスすれば生涯使える ●自分だけの1台に育つ |
デメリット | ●タッチによる表現力が身につきづらい ●音も演奏性も価格によって性能が大きく異なる ●耐久年数は10から20年ほど | ●音が大きく音量調整できない(後付けできる消音器はある) ●サイズが大きく重いので置き場所を選ぶ ●メンテナンス費用がかかる(年に1回以上の定期調律が必要、数年に1度全体調整が必要) |
アコースティック(生)ピアノにはコンサート会場にあるようなグランドピアノと、箱型のアップライトピアノがありますが、今回の記事では電子ピアノとの比較がわかりやすいように、生ピアノ=アップライトピアノとして説明します。
電子ピアノのメリット
メリット①:音量調整ができる・ヘッドフォンが使える
電子ピアノは手元で音量調整ができます。集合住宅で大きな音が出せない、演奏する時間帯がバラバラなので音量を小さくしたいというあなたにピッタリです。
またヘッドフォンを接続すればスピーカーから音が出ないため、夜間の練習も可能です。
ただし打鍵音(鍵盤を押した時に出る物理的な音)までは消せません。振動なので床を伝わって階下に響く恐れもあります。心配な場合は防振マットを敷きましょう。
趣味で嗜む程度であれば過敏になる必要はないですが、本格的な練習をしたい、お子さんのピアノのお稽古のためという場合は、スピーカーの音量は生ピアノくらい大きくすることをおすすめします。というのもピアノは鍵盤を押して音が出るという単純なものではなく、弾く強さによって音の強弱や響きなど微細なコントロールも必要になってくるためです。
メリット②:予算に応じて選べる
端的に言うと価格が高ければ高いほど、音も弾き心地も生ピアノに近くなります。
電子ピアノは5万円台のものから100万円するものまで各社から幅広いラインナップが展開されています。
例えば音源自体の性能が良くなったり、スピーカーの数が増えて生ピアノのような音場を作ることで、音が本格的になりますし、
鍵盤の構造を緻密に設計することで、生ピアノのような演奏性を実現する、といった具合です。
メリット③:調律不要(メンテナンスが楽)
電子ピアノはデジタル音源なので調律は不要です。生ピアノの定期調律は1年に1回、1万円以上はかかるのでこれは嬉しいポイントです。
ですのでお手入れは家具などと同様、ホコリを落とすなど綺麗に保つだけでOKです。
電子楽器なので水分・湿気に弱いのはその通りですが、木製の生ピアノの方が繊細です。いずれにしろ言え風通しが悪く常に湿度が60%を超えカビが生えるような劣悪な環境でなければ簡単に壊れることは無いでしょう。もちろん水をかけるのは厳禁です。
鍵盤が木製のものは湿気で歪むこともあるので、歪まないようにあえて樹脂の鍵盤を使っている電子ピアノもあります。
メリット④:メトロノームやアプリなど多機能
メトロノームが内蔵されているものがほとんど。テンポ(速度)も自由に変えられます。ただし本格的に練習するなら視覚的にも確認できる振り子型のメトロノームの方が良いでしょう。
スマホアプリなどと連携した様々な機能を持つ機種もあります。
例えばBluetooth接続することで好きな曲を流しながら一緒に練習する、趣味で独学をされる人ならYouTubeのレッスン動画を流しながら練習するのも良いでしょう。
練習記録をつけるアプリ、楽譜が無い楽曲でもコードを解析して表示するようなものもあります。
メリット⑤:様々な音色が選べる
ピアノの音もグランドピアノの音が何種類も入っていたり、アップライトピアノの音もあればオルガンやチェンバロ、シンセサイザーの音を切り替えることもできます。
様々な楽器の音色に切り替える人は少ないとは思いますが、お気に入りのピアノの音を選べるのは良いですね。
メリット⑥:40kg弱〜、大人2人で楽に移動できる
アップライトピアノに比べると軽量です。大人2人で両脇から持ち上げれば模様替えなどは簡単にできます。
ただし上位機種になると80kgを超えてくるものもあります。賃貸住宅で床の変形が心配な場合は、マットを敷いて重量を分散させましょう。
メリット⑦:個体差が無い
電子ピアノは楽器とは言え電化製品と同様、個体差はありません。
生ピアノは木でできている部分も多く、どんなに気をつけて管理しても木の状態が変化して不具合が生じる可能性もゼロではありません。
電子ピアノではそういった心配はなく、お店で買ってもネットで買っても品質に違いはありません。
とは言え必ず壊れないということでは無いので、万が一の際にしっかり修理サポートなど対応してくれるお店で買うようにしましょう。楽器店であればほとんどのお店はネット購入でもこの点は安心です。
電子ピアノのデメリット
デメリット①:タッチによる表現力が身につきづらい
ピアノは鍵盤を演奏するタッチによって力強い音色と優しい音色、音の深みや軽やかさなど非常に表現が豊かな楽器です。
これらは指の繊細なタッチによって表現されますが、電子ピアノでは完全に再現しきれていません。
特に10万円以下の電子ピアノでは、どうやって弾いても良い音になってしまいます。ずっとそんな電子ピアノで練習していると、いざ生ピアノで演奏した時に理想的な弾き方が身についていないため綺麗な音で鳴らすことができない、といった恐れがあります。
逆に言えば趣味で楽しく弾ければ良いという人には良い点かもしれません。
しかし近年の電子ピアノのタッチは改善されており、20万円前後以上のものであればかなり良くなっており、趣味であればストレスなく演奏できます。
また鍵盤の構造部をアップライトピアノと同様のものを採用した電子ピアノもあります。このハイブリッドピアノは、弾き心地が生ピアノに限りなく近い電子ピアノですが、一般的な電子ピアノよりも高価です。
デメリット②:音も演奏性も価格によって性能が大きく異なる
予算に応じて選べるメリットの一方、10万円以下の安い電子ピアノと30万円以上の電子ピアノでは性能が大きく異なります。
電子ピアノは高ければ高いほど、音も弾き心地も生ピアノに近くなります。
デメリット①で挙げた繊細なタッチにおいても、ある程度価格に比例しても反応が良くなり、演奏力の向上においては魅力的です。
音色も高価になればなるほど生ピアノのような迫力のある音に近づきます。ピアノの音を本物に近づけるために、より良い環境で録音したピアノ音源を使用したり、スピーカーを多くするなど、各社研究開発しています。スマホのスピーカーで聞く音と、オーディオマニアがこだわったアンプやスピーカーで聞く音のどちらがコンサートの音に近いかというのと一緒ですね。
グレードが高くなるとそれだけ鍵盤の構造が複雑になったり、スピーカーの数が増えるため、重量も重くなります。
デメリット③:耐久年数は10から20年ほど
しっかりメンテナンスすれば孫の代まで使える生ピアノとは異なり、電子ピアノは家電のようなもので丁寧に使っても20年くらいで限界がくるでしょう。
使用状況や環境によるので断言はできませんが(家によって冷蔵庫が壊れない時期が異なるように)、普通に使っていれば10年ほどは問題なく使えるでしょう。
私は楽器店で勤務していますが、販売台数に対して修理のご相談は驚くほど少ないです。店頭で販売しているのはヤマハ、ローランドといった国内ブランドなので、数ヶ月の故障が心配なら国内ブランドが断然おすすめです。
万が一故障しても家電同様に国内ブランドのものであれば、サービスマンに直してもらうことは可能です。しかし発売から長期間経ったものは出張修理を受け付けてもらえなくなります。(例えばローランドなら生産完了から8年。参照: https://www.roland.com/jp/support/service_repair/1708080000/)
ちなみに10年も使えたなら買い替えが断然おすすめ。かなり上達しているので、電子ピアノの性能の違い(10年で性能は上がります。)もはっきりと認識できるでしょうし、そこまでいけば生ピアノも視野に入れて検討すると良いです。
生ピアノのメリット
メリット①:本物のピアノの音色
生ピアノは鍵盤を使うとアクションが動き、ハンマーが弦を叩くことで発音、楽器全体が共鳴した音こそ、本物のピアノの音です。
電子ピアノは基本的にこの本物のグランドピアノの音を録音したり再現したものを、スピーカーから鳴らしているのです。
ライブコンサートで聞く楽器の音とCDやスマホで聞く音が異なるように、生ピアノにはどうしても電子ピアノでは再現しきれない部分があります。
メリット②:強弱などタッチによる表現力が身に付く
鍵盤を押すと内部のアクションによって弦を叩くハンマーが動く。この複雑な構造は演奏者の弾き方を音色で表現するために必要なのです。
グランドピアノでは一鍵盤あたり約70個、全部で6,000以上のパーツも組み合わさった複雑な構造がアクションに影響しています。
電子ピアノでは鍵盤の動きをセンサーが感知して音が出ます。トッププレイヤーによる指先の繊細な表現までは感知してくれません。
メリット③:定期的にメンテナンスすれば生涯使える
信頼のおける調律師に、最低1年に1回の定期調律を依頼し不具合があればその都度修繕してもらう、というように丁寧なメンテナンスを心がければ、生涯使えるのが生ピアノです。
実家にある親のピアノを子どもへ譲る、さらに孫の代まで使う方もいらっしゃいます。
しばらく放置してしまっても、大掛かりな修理が必要な可能性はありますが復活させることもできるでしょう。
メリット④:自分だけの1台に育つ
響板や鍵盤をはじめ本体の大部分は木製です。木は自然なものなので、同種を使っても厳密には全く同じ木材というものは存在しません。その集合体のため個体によって1台1台、音色が異なります。
これに加えて弾き込んでいくほどに響きがより豊かに変化していくので、自分の演奏に合った自分だけの1台に育てるのも生ピアノの楽しみです。
他のアコースティック楽器同様、同一品番であっても1台1台の個性があるのも特徴です。「TAKU-音 TV たくおん」さんのこちらの動画では実際に弾き比べて楽器を選ばれています。
生ピアノのデメリット
デメリット①:音が大きく音量調整できない
生ピアノが購入できない最も大きな理由は、音が大きいことでしょう。
一般的なアパートではかなり難しいです。
若干弾き心地が変わってしまいますが後付けできる消音装置もあります。
一戸建て住宅ならヤマハアビテックスという組み立て式防音室も検討するのも良いでしょう。ただし100万円以上からと高額です。
デメリット②:サイズが大きく重いので置き場所を選ぶ
グランドピアノは言わずもがな、箱型のアップライトピアノでも電子ピアノよりは一回り大きいです。
そしてなにより重いです。電子ピアノで重いものでは数十kgですがアップライトピアノは200kgは超えます。
キャスターがあるとは言え、動かすと調律が狂うことも往々にしてあります。気軽に模様替えはできません。
デメリット③:年に1回以上の定期調律が必要
内部に張ってある約230本の弦は、トータルで約20トンもの張力がかかっています。それを支えている本体は木製です。弦も本体も温度や湿度の変化にも影響を受けます。それによって音程が変わってしまうのです。
これは防ぐことができないので、最低年に1回は調律師による調律が必要です。230本もの弦が複雑に作用し合うのでギターやバイオリンのように演奏者ができるものではありません。
一般的にこの定期調律は1万円以上はかかります。加えて数年に一度は数万円の全体の保守点検やクリーニング、修繕などが必要になるケースもあります。
電子ピアノと生ピアノどっちが良い?
上記の通り電子ピアノは生ピアノのデメリットを改善できている一方、電子ピアノのデメリットは生ピアノならではのメリットを完全再現できていません。これについては電子ピアノのグレードが高くなるに従い、改善されています。
どちらが良いかと言えばあなたの使用目的によって異なるでしょう。
今回の記事の結論である電子と生ピアノの違いは
・電子ピアノの方が音量の面で有利
・生ピアノでしか得られない音と表現力がある
・電子ピアノは高いほど生ピアノの性能に近づく
という観点から選び方を簡潔にまとめると
①:大きい音が鳴らせる、置く場所がある、予算があるなら生ピアノがおすすめ
②:音量や価格面から生ピアノが難しいなら電子ピアノがおすすめ
③:電子ピアノでも予算が許す限り高いものが良い
とはいえ、音量問題・価格・ランニングコスト・メンテナンス性から現代では多くの人にとって電子ピアノが良いです。
大人の方が趣味で始めるなら、10万円台くらいの電子ピアノで不満は無いでしょう。
電子ピアノは、ひと昔前と比べて品質・性能が格段に良くなっています。
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